Abuflug 2016 -行方の灯台-
会期日程
2016.3.7(mon)-3.16(wed)
close:sun
開廊時間
11:00-19:00 1F/3F
作家名
佐野 笑子 SANO Shoko
橋本 実佳 HASHIMOTO Mika
藤田 淳也 FUJITA Junya
柳下 綾香 YAGISHITA Ayaka
レセプション
Closing party 3.16(wed)18:30
イベント
Gallery talk 3.16(wed)17:00-
guest.藤井 匡 FUJII Tadasu
ステートメント
「Abflug2016 ― 行方の灯台」 によせて
離陸を意味する「Abflug展」、東京造形大学母袋ゼミ有志による卒展では、批評家とのギャラリートークが恒例となってきた。それは作家としてスタートしようとする出品者とのトークを美術評論家の鷹見明彦さんにお願いしたのがきっかけであった。
今年はターナーギャラリーが会場となる。5年前のAbflug展の初日は記録的な雪に見舞われた。恒例のギャラリートークに鷹見明彦氏は重病をおしてそのターナーギャラリーに来廊、若き作家にメッセージを送って下さったのだった。だが、その展覧会が結果的には氏が最後に目にした展覧会となったのだった。その後まもなくあの3月11日が我々を襲い卒業式を奪うことにもなり、氏からのエールを胸に出品者たちは離陸していったのだった。
2011年、 僕らの大地は怪しくそして大きく鳴動した。すべての専門性は根本からその本質と胆力を問われることとなった。僕らは揺れ続ける大地、液状化してしまってい る大地にしゃがみ込みながら未曾有の夥しいあの動画を眼にし、追い討ちをかけられるように今度は眼で見ることも許されない原発事故による計り知れない絶望 と不安のなかで、覚悟を持って生き始める 生き直す決意を持っていたように思う。僕らはあの日々の中、強烈に何かを悔い改め生き直す覚悟を共有できているという希望を持っていたように思う。
果たして絵画は美術はそれに応える時間を重ねてこれたと言えるのだろうか。
絵画は実体であり虚である両義を生きている。
絵画は大地すなわちリアル・現実の側に属すことなく、中空に現象として現れるもののように思えるのである。故に圧倒的現実を前にした時、一見非力にも映るのであるが、その分理想、理念、イデアに近いのである。その場こそに絵画は現出を果たすのである。
この1年、ゼミという共有の場でそれぞれは各々のテーマ追究、研究発表、ディスカッションを通して互いに刺激し合い思索と研鑽を積み、自らのテーマ、作品を問いかけ制作実践を重ねてきた。ことにアートプログラム青梅へのユニット「H(タテタテヨコ)」での参加は「社会と作品」の関係を作品の意味と力を粘り強く考えていく機会をもたらしたはずである。
佐野笑子は「自然の行為でもあり、人間の行為でもある〈営み〉をきっかけとする絵画」を。
橋本実佳は〈したたかな生命力・目線〉をキーワードに「心と体との間にある隙を粘膜のような 核のようなものを通してやりとりしていく」インスタレーションを。
藤田淳也は「形の持たない感覚となって世界と私の境界を軽々と通過する、そのような吹き抜けの状態を自身の鏡としての案山子に置き換える」絵画を。
柳下綾香は「“生あるもの”が限りある命の中で何を残し、また“生あるもの”は、何を残されたのか」をテーマとした制作を。
今回それぞれの実現にむけてのこれらの試みは、会場2フロアーに重層される事になる。互いの作品はそれぞれの今後の行方を照らし返していくこととなるはずである。
展覧会最終日には、美術評論家 藤井匡さんをゲストにトークが開催される。
2016年1月 東京造形大学教授 母袋俊也