
紫は鴨、桑の実は遠くまで飛ぶ フライヤー
TURNER GALLERY
紫は鴨、桑の実は遠くまで飛ぶ フライヤー
会期日程
9月6日(土)~9月15日(祝)
※日曜休廊
開廊時間
10時~18時
作家名
宮川遥弥
1991年 高知県 生まれ
2017年 多摩美術大学 大学院 油画研究領域 修了
風景や静物などのスケッチ、ドローイング、日々書き溜めているテキストを手掛かりに、「関係性の在り⽅によって流動的に形や意味が変化し続ける、ものごとの曖昧な輪郭を辿ること」をテーマに絵画を制作している。
山下源輝
1998年 神奈川県生まれ
2022年 多摩美術大学 油画専攻 卒業
景色や風景など、姿形の移ろい続ける物のあり様、「溜まり」を探ることをテーマにしている。
むき出しの構造物などの、風景の一部として溶け込んでいるものを起点に、ドローイングや平面、立体を、「溜まり」を観測する器として制作している。
ステートメント
2人の作家が、ある公園でスケッチを行う中で共有された「違う景色を見ながら同じ場所を描こうとする感覚」「脱線と飛躍の先で、伝えたかった何かへ辿り着く感覚」を元に、展示を行います。
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”紫は鴨、桑の実は遠くまで飛ぶ"
発見のトリガーは、不意に出る鼻歌のように、日々の中で「なんとなく」の顔をしている。
市内にあったその公園には大きな池があって、敷地も広く、綺麗に手入れがされていた。
梅雨の晴れ間だったから、自分達の他にも、画材を広げて写生をしている人もいる。
これはカラスノエンドウ。ニガイチゴ、フジ。あのグリッド状になっているのは何のための枠?
池の縁には桑が植えられていて、手の届く高さに沢山の実をつけている。
深い光沢のある小さな粒の集まり。
所々にひょろりと棘のようなものがある。その棘と棘の間には、1本、細い蜘蛛の糸が張られている。
この蜘蛛の糸は、あのドクダミの花の近くで休んでいた子の仲間の糸?
少しだけ土埃。ふっと吹いて飛ばす。
触れると簡単に潰れてしまうほど実は柔らかく、スケッチをしようと思っていた自分達には、指先の濃い紫の果汁は透明水彩のようにも見える。
「桑の実が思いの外美味しかった。ゲームでは美味しいものって体力が回復するイメージです。紫…きずぐすりはエリクサーと同じ色なのに、ほとんど体力が回復しないんだよなぁ。」
「スケッチブックに桑の種がついてるね、僕のより色が少し薄い。いつも使うのはこれくらい細いペンなの?」
大きな池からは、柵を抜け、水路を伝って、そろそろと水が流れている。
あのポール、いい形してる。4つくらい並べたらかっこいいかも。
水の反射も、描かれた形の隙間も、スケッチブックの上では固さが感じられる。
描くと元の形から崩れる…でもこれは、あそこの植木の支柱を描いたもの。
このスケッチを立体に起こすとしたら?
水面に朽木がある。あ、亀。2匹いるみたい。鴨が飛んでくる。頭上を通り過ぎる翼の中に、紫の羽が見える。
*
生垣を挟んで同じ方向へ歩いているようだった。
違う時間の流れを生きていたようで、視界の片隅には自然と相手を捕えていた。
相手が何を見て、何をしていたのか。そして、その並行する相手の時間は、同時に自分の時間の一部でもあったことを、お互いに気付いている。
彼は、少し遠くまで歩いたり、寝転んでみたり、柵を飛び越えたりと、動き回って絵を描いていたし、僕は気に入った場所に座ったまま、あちこちをキョロキョロしながら描いていた。
俺の話ばかりになっていません?
ううん、ここは僕が見ていたものの話。
脱線から始めた全く関係のない話の先で、辿り着きたかった(かもしれない)ところに、突然着地する時がある。
さよならさんかく またきてしかく
どこかで聞いたことはあるけれど、「しかく」が一体どこから来たのかはよく分からない。
ちなみに、この言葉遊びは「ごきげんごかくでまたあした」とも続くらしい。